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歯が原因ではない痛み  ‐非歯原性歯痛‐

 

非歯原性歯痛とは

 

歯が原因ではない”歯痛”を非歯原性歯痛といいます。

 

歯科患者の1~6%とまれではありません。

 

その中で主な8つの疾患について病態と対処法をご説明します。

 

 

 

 

1.筋・筋膜性歯痛(筋性歯痛)

 

1)筋・筋膜性歯痛とは?

 

咀嚼筋が酷使されて疲労すると筋の痛みが生じる。

 

「筋・筋膜性歯痛」は患者がこの筋の痛みを「歯痛」と

 

誤ったものをいいます。

 

基本的には三叉神経領域の痛みですが、

 

実際には上部頸神経も三叉神経脊椎路核に収束する為、

 

肩こりからも歯痛が生じることがあります。

 

筋肉が疲労すると、筋中にトリガーポイントという圧痛点が出現します。

 

日本人の感覚でいうと、「つぼ」に相当するものです。

 

しかし、筋の痛みが悪化すると圧痛のみではなく、

 

自発痛がしばしば痛みの発生源から離れた部位に生じることがあります。

 

これを関連痛といいます。

 

疼痛発生源と、実際に患者さんが痛いと感じる場所が異なる為に、

 

診断を難しくしてしまうのです。

 

もっとも典型的なのは、咬筋に生じるトリガーポイントで、

 

下顎臼歯部に関連痛を生じさせるため、患者さんは

 

「下顎臼歯部の痛み」と誤認します。

 

他にも、側頭筋や、顎二腹筋の筋痛が、「歯痛」と誤認される

 

場合があることが知られています。

 

 

2)異所痛とは?

 

前述のような、痛みの発生源と、実際に痛みを感じている場所が

 

違うことを異所痛といいます。

 

これは、患者さんの訴えは「上の歯が痛い」であったが、

 

原因は「下の歯の虫歯」であったケースです。

 

その他にも、歯痛で肩こりが生じることは多く、

 

患者さんから、「歯が痛いと肩がこりますか?」

 

(またはその反対)と質問されることも多いです。

 

異所痛のメカニズムは、収束と関連痛という概念で説明できます。

 

つまり、上下の歯痛を誤認する、歯が痛むと肩がこる理由は、

 

”上下の歯(歯または肩)の神経は、首の中で1つになるので、

 

脳が部位を間違えやすい”ということです。

 

3)診断的麻酔

 

本物の歯痛なのか、筋からくる「歯痛」なのかを診断する方法として、

 

痛みの発生源である、筋のトリガーポイントに直接麻酔をする

 

方法です。

 

トリガーポイントへの麻酔で、それまで感じていた痛みが

 

無くなれば筋から生じた歯痛であると診断します。

 

治療は、筋性顎関節症に準じて、筋のマッサージや

 

ストレッチなどの理学療法を中心に行います。

 

 

2.神経障害性歯痛

 

神経障害性歯痛とは、神経細胞が傷害されて生じる痛みによって、

 

生じる歯の痛みをいい、発作性と持続性に大別されます。

 

今回は持続性神経障害性疼痛について説明します。

 

よく知られているのは、インプラント埋入や抜歯あどによる下顎神経の

 

損傷で生じ、下口唇の感覚鈍麻や軽い接触で強い痛みが生じる

 

現象などを後遺するものです。

 

もうひとつ、帯状疱疹の経過中に生じる帯状疱疹性歯痛があります。

 

1)帯状疱疹性歯痛

 

帯状疱疹によって、三叉神経の細胞に潜伏したウィルスが神経線維中を

 

末梢に向かって移動します。

 

つまり、そのウィルスが末梢の上顎、下顎に移動し、「歯痛」

 

を訴えます。

 

患者さんが歯痛を訴え始めてから収束するまで、通常1週間程度です。

 

間続なく持続するキリキリした激痛であり、痛みにより不眠をきたすことも

 

あります。

 

 

 

3.神経血管性歯痛(TACs、偏頭痛)

 

偏頭痛などのように、脳の血管に一過性の神経原性の炎症が生じるために起こる頭痛を

 

「神経血管性頭痛」といいます。

 

偏頭痛の患者さんが偏頭痛の発作時に、頭痛よりも歯痛や、

 

顔面痛を強く訴えることがあります。 これは顔面偏頭痛といいます。

 

偏頭痛よりもさらに歯痛を起こしやすい頭痛を

 

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs=タックス)といい、顔面片側の

 

発作性の激痛を特徴とし、発作中は患側に顕著な自律神経症状を

 

伴います。

 

代表的なTACsである群発頭痛の特徴は、

 

・20~40代で初発

・5:1で男性に多い

・周期性:群発期と寛解期があり、1~2年

・持続時間:15~180分(平均1時間)

・部位:眼窩を中心に上顎最後臼歯・側頭部

・症状:「焼け火箸を目に突っ込まれるような」一定の激痛

・強さ:想像できる最悪の激痛

・随伴症状:発作中は患側に自律神経症状を伴う

・夜間睡眠中に発作が生じることが多く、痛みで覚醒する

・群発期中は飲酒で発作が必発する

 

治療の中心は薬物療法で、純酸素吸入も有効と言われています。

 

 

5.心臓性歯痛

 

虚血性心疾患で歯痛が生じることは良く知られていると思います。

 

重要な特徴は「痛みは発作性に生じ、10分以内に消失する」

 

ところです。

 

2007年のKreinerの有名な研究では、患者の38%は発作時は

 

頭顔面部にも疼痛が生じ、6%は頭顔面部疼痛が唯一の症状であったと

 

報告しています。

 

部位では、ノドの上部や下顎に多く86%が両側性の痛みです。

 

 

 

6.精神疾患または心理社会的要因による歯痛

 

うつ病や双極性障害、不安障害、統合失調症、パーソナリティ障害などの

 

患者さんが精神疾患の身体症状として歯痛や顔面痛を訴えられる

 

ことはしばしばあります。

 

精神疾患の身体症状が疑われる場合は精神科医と連携しながら

 

疼痛管理を行って行きます。

 

 

 

7.特発性歯痛(非定型歯痛)

 

 

特発性とは、原因不明を意味する医学用語です。

 

歯科でよく見られるのは、起きている間中持続する、”じんじん・じわじわ”

 

と表現される痛みが特徴の疾患です。

 

耐え難い痛みではありますが、睡眠中や、食事中など

 

何かに気を取られている時には痛みが消失します。

 

・平均年齢:55歳

・9割が女性

・7割が歯科治療がきっかけで発症

・3~4割はうつ病か不安障害の既往があるという報告もあります

 

治療は、薬物療法と認知行動療法の併用が推奨されています。

 

 

8.その他の様々な疾患により生じる歯痛

 

 

悪性腫瘍、血管炎、頸椎、新生物、迷走神経反応、薬物の副作用

 

などの様々な原因で「歯痛」が引き起こされることがあります。

 

 

まとめ

 

非歯原性歯痛という概念はここ30年ほどの間に徐々に

 

知られるようになってきました。

 

歯が原因である痛みは、局所刺激に過敏、食事中に悪化する、

 

痛むときに診断的麻酔を行って痛みが消失する場合はその歯が

 

原因である可能性が大きいです。

 

一方、歯が原因ではない痛みの場合は痛みに見合うだけの所見が

 

ない、歯科治療に反応しない、一定の痛みが数ヶ月から数年に

 

わたり持続する、食事中は痛みが消える、痛みの部位が移動する、

 

繰り返し数十分間生じる”発作性”の痛みなどの特徴があります。

 

まずは歯科医院に受診し、通常とは異なる「歯痛」の場合は歯が原因か否かの判断をし、

 

非歯原性が疑われる場合は、専門医と連携をし解決していくことが

 

必要になると思います。

 

 

 

 

日本歯科医師会雑誌 vo1.71 No.10 2019-1

非歯原性歯痛  ~その歯痛,本当に歯が原因ですか~ より抜粋