歯ぎしり~TCHとは~

歯ぎしりとは

歯ぎしりは、睡眠中に行われる睡眠時の歯ぎしりと起きている間に行われる覚醒時の歯ぎしりに区別されます。 いずれも、反復性の咀嚼筋活動(食べ物をかむ時に働く筋肉の活動)のことを示します。 この咀嚼筋活動に伴い、歯ぎしりやくいしばりなど、上下の歯の接触を伴う場合もあれば、下顎の突き出しやこわばりなど歯の接触を伴わない場合もあります。

歯ぎしりによって、上下の歯が接触すれば被せ物が欠ける、歯が欠ける、知覚過敏により歯がしみる、歯周病の悪化、顎関節症、非感染症の歯痛、舌の痛みなど様々な害をもたらすと考えられていますし、歯の接触がなくても下顎のこわばりなどによって非機能的な咀嚼筋活動が続けば、咀嚼筋や顎関節に負荷が加わり、顎関節症状を引き起こす可能性もあるのです。

睡眠時の歯ぎしりとは

睡眠時は重力の関係で、下顎は後下方へ落ち込み、その結果、やや口が開いた状態が保たれます。 しかし、睡眠の深さの変化などにより筋肉の緊張が上昇して、下顎の運動が生じることがあります。 睡眠中にも1時間あたり6~10回程度の唾液嚥下運動が生じ、それ以外にも咀嚼しているような下顎運動が生じます。(以下この活動をRMMAと表します) これは、60%の人に1時間あたり2回程度の頻度で起こります。 睡眠時歯ぎしりが過剰な場合、RMMAの回数や筋肉の活動量は増加すると言われています。 RMMAの発現と睡眠中の生理的活動を調べた研究によると、中枢性の活動が進むにつれRMMAが生じることから、睡眠時歯ぎしりの発生は中枢性であると考えられています。 つまり、歯の早期接触(口を閉じた状態で一部の歯のみ接触する状態)や咬み合わせの悪さなど、咬み合わせが歯ぎしりの原因との考えは最近では否定されています。 睡眠時の歯ぎしりがの発生頻度がなぜ増加するのかということについてはまだ明らかになっていない部分が多いのですが、遺伝的要因が強いとも言われ、それ以外にもストレスや、睡眠時無呼吸など様々な因子が関係していると考えられています。

起きている間の歯ぎしりとは

起きている間に行われる歯ぎしりと聞くと”くいしばり”を想像される方が多いかもしれませんが、しかしこの言葉からイメージする力は最大咬合力の70~80%程度であるとされています。 患者様にくいしばりを再現してもらうと、ほとんどの患者様はその力を維持するのは困難であると答えます。 続いて、その1/4程度の力で咬んでもらうと維持することが可能になり、さらにその状態は”くいしばり”という認識ではなく、”歯が当たっている”状態であるといいます。 つまり、大きな咬合力では持続が困難であるが、小さな咬合力は長時間持続することが可能であるということです。 すなわち、くいしばりは持続困難で、歯の接触は持続可能ということになります。 歯の接触がより長時間化し、日常生活において習慣化したものをTCHといいます。

TCHはなぜ生じるのか?

デスクワーク中やスマートフォン操作時は、頭部を前傾させてややうつむく様な姿勢を取ることが多いと思います。 このとき、下顎はわずかに前方に移動するため、上下の前歯同士がぶつかりやすくなります。 上下の歯の接触によって歯根膜(歯と歯槽骨の間にあるクッションの役割をする繊維)に持続的な力が加わると咬筋に反射性の活動が生じます。 このようなことから、閉口筋である、咬筋の収縮が持続することにより、上下の歯の接触状態が持続され、TCHへと発展していくのです。 またこれは、ストレスや集中、過度の緊張によっても生じるといわれています。

歯ぎしりへの対応

①レベルダウンの考え方

歯ぎしりは健康に対する害の有無によって3つのタイプに分けられます。 極度の歯の咬耗(咬むことにより歯がすり減ること)や破折、補綴物の破損、顎関節症などを引き起こすレベルであれば、健康に害を及ぼすリスク因子として、歯ぎしりをとらえる必要があるかと思います。 また、睡眠時の歯ぎしりに引き続いて生じる空嚥下による逆流胃酸の中和作用などは健康への保護因子として考えられます。 歯ぎしりはあるが、上記のどちらにも寄与しない場合は、単なる行動(筋活動)として捉えることができます。 つまり、歯ぎしりがあるからといって全てが悪いわけではなく、健康に害を及ぼすリスク因子になっている場合のみ対応すべきなのです。 この際にも、歯ぎしりという行動をゼロにすることを目指すのではなく、歯ぎしりによる力の大きさ、持続時間、頻度、および力の集中を害を及ぼざない程度にレベルダウンさせることが目的となります。

②睡眠時の歯ぎしりをコントロールする

睡眠時の歯ぎしりに現在、最も多く用いられている方法は、口腔内装置です。 その他には、ストレス軽減や、睡眠時の歯ぎしりを生じさせている可能性がある原因疾患、特に閉塞性睡眠時無呼吸症や、胃酸の逆流の治療があります。 また、交換神経抑制薬やセロトニン作動性薬などが、軽減させる可能性があるという研究報告もあります。 ボツリヌス毒素注射も睡眠時の歯ぎしりを低下させる期待ができますが、筋活動量は減少するものの、歯ぎしりを行う回数が減ることはあまり期待が出来ないでしょう。

③TCHをコントロールする

TCHのコントロールもその行動をゼロにすることが目的ではないのです。 したがって、歯が接触してる時間を短くすることが目標になります。 患者さん自らが、歯の接触に気付くということが大切です。 その方法として、咬筋部(または即頭筋部)に人差し指を当て、軽い歯の接触によって、筋の収縮が生じていることを感じてみることが効果的です。 また、メモやシールなどといった視覚的なものや、タイマーの音や振動の合図があったときに気付くようにするというもの。 この時に重要なのは、力の大きさは無視して、あくまでも、歯の接触の有無を基準とし、合図の回数に対して4~5割以上の頻度で歯の接触が確認された場合、かなり多いと判断できます。 次に、合図があったときに歯の接触に気付かされたら、すぐに「深呼吸」を行う。 深呼吸の際には、両肩を持ち上げながら鼻から大きく息を吸い込み、脱力して肩を落とした勢いで口から息を吐き出す。 こうすると、上半身の力が抜けたと同時に自然と上下の歯が離れる感覚が体験できると思います。 咬んでいたというショックの直後に、「力が抜けたら自然と歯が離れた」と感じられます。 以上のことを繰り返すことにより、合図がなくても上下の歯の接触に気付くようになってきます。 つまり、歯が当たったことに気付くという頻度が増えてくると思います。 その結果、今まで認識していた力よりも弱い力で、自らの歯の接触という行動に気付くようになるでしょう。

TCHによる様々な影響

TCHという概念は、顎関節症における寄与因子の1つとして提唱されたものであることから、顎関節や咀嚼筋に過剰な負担を生じさせる可能性があります。 痛みを伴う顎関節症患者の54%は、日常生活において上下の歯の接触頻度が多いことが示されています。 また、筋痛患者は健常者に比べて覚醒時の非機能的な歯の接触頻度が約4倍多かったという報告もあります。 睡眠時の歯ぎしりは、歯周病の増悪因子として以前から注目されていましたが、最近の研究ではTCHのような覚醒時の持続的負荷の方が、影響が大きい可能性があることが示されています。 また、取り外しの義歯を装着した状態で、TCHのような行動があると、粘膜の持続的圧迫により顎提粘膜の異常感覚や痛みを生じさせる可能性が考えられます。 このような患者様は痛みを訴えるものの、粘膜に傷などを見出すことが出来ない場合が多く、長時間義歯を装着していると、圧迫感や窮屈間が増加することを訴えることも多いのです。 さらに、弱くて持続的な噛みしめにより、歯髄感覚が過敏になる可能性や、歯根膜感覚の変化が引き起こされる可能性も示唆されており、知覚過敏や咬合違和感の一員としてもTCHの関与が示唆されるようになってきています。

まとめ

”歯ぎしり”というと、睡眠中の歯ぎしりやくいしばりをイメージすることが多いと思います。 しかし、起きている間にも歯ぎしりは行われています。 覚醒時の歯ぎしりは睡眠時に比べて生じる力は小さいですが、長時間化する可能性があることから、顎口腔系に睡眠時とは異なった障害を引き起こすことが考えられます。 この覚醒時の歯ぎしりの1つとしてTCHがあります。 TCHは気付きにくい行動ですが、このようなことが起こる可能性が考えられるため、睡眠時の歯ぎしりだけではなく、TCHのように無自覚で持続的な力に対しても十分に目を向けていくことが重要になるといえるでしょう。

※日本歯科医師会雑誌 シリーズ身近な臨床・これからの歯科医のための臨床講座 ブラキシズムとしてのTCH より引用

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